新・観光立国論(デービッド・アトキンソン著)は、観光業関係者、全員が読むべき

新・観光立国論 コラム

デービッド・アトキンソンさんの、新・観光立国論を読みました。
今後の、日本の観光業発展のために、素晴らしい本だと思います。

外国人観光客が増えることで、国際線・国内線ともに路線が増える可能性もあり、マイラーにも関係があるのではないでしょうか。

新・観光立国論(デービッド・アトキンソン)

最近、デービッド・アトキンソンによる、新・観光立国論を読みました。

Amazonで文庫版・Kindle版ともに購入できます。

デービッド・アトキンソン 新・観光立国論

最初に結論を書くと、観光業の関係者は全員読むべき本だと思います。

デービッド・アトキンソン(David Atkinson)とは?

1965年イギリス生まれ。

1992年~2007年まで、ゴールドマン・サックスに勤務されていました。1998年には取締役、2006年には共同出資者ということですから、敏腕だったのでしょう。

1999年には裏千家に入門、2006年には茶名「宗真」を拝受されています。
日本人でも、茶道をされるかたは少数です。私の周りにもほとんど居ません。

2009年からは、重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社され、2010年からは同社の会長に就任されています。

以前、テレビ東京のカンブリア宮殿に出演されており、そのときの放送を覚えています。

東洋経済オンラインにも、たくさんの記事が載っています。

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「短期移民」という言葉

本書の中で、「短期移民」という言葉がでてきます。

これは、すなわち「外国人観光客」のことです。

書籍の中では、日本にはこの短期移民を大幅に増やし、観光立国になる潜在力があるものの、それが発揮できていないため、どのような解決策があるのかを、カテゴリごとに紹介されています。

外国人観光客のカテゴリ分けが、本書の特徴のひとつです。

 

「観光立国の条件」星野佳路氏との違い

星野リゾート代表取締役社長の、星野佳路さんは、私の好きな経営者の1人です。
軽井沢の再生をはじめとして、各地のホテルを再生させています。

最近では東京・丸の内に温泉付きのホテルを作ったのが印象的です。
以前は、国交省の成長戦略会議のメンバーでもありました。

 

星野佳路氏は、観光立国の条件としていくつか挙げられています。

 

その項目は、時期と媒体によって若干異なるのですが、その項目には以前から少し違和感を感じていました。

星野佳路氏とデービッド・アトキンソン氏による、観光立国になるための条件の違いは以下の通りです。

観光立国になるための条件の比較

項目 星野佳路氏 David Atkinson
1 国の知名度 気候
2 文化の知名度 文化
3 交通アクセス 自然
4 治安の良さ 食事

デービッド・アトキンソン氏は、観光立国の条件として、星野佳路氏が言われている交通アクセス、治安の良さがありません。

 

交通アクセスの良さは十分条件だけど、必要条件ではない

アメリカのグランドキャニオンは、世界から年間400万人が訪れる人気の観光地です。

以前行ったことがありますが、日本では見られない雄大な景色。
ずーっと開けた場所で、自分が小さく感じます。

地層も真っすぐ。
日本で同じような場所があったとしたら、地震で地層は曲がったりしていることでしょう。

グランドキャニオン

グランドキャニオンには、ラスベガスからのアクセスが良いです。

アクセスが良いといっても、日本からはラスベガスには直行便がないため、ラスベガスにたどり着くまでには乗り継ぎが必要です。

その後、グランドキャニオンへは飛行機かバス、レンタカーになります。

飛行機だとラスベガスからグランドキャニオンまで、プロペラ機で1時間半ほどで着くものの、ツアーは4万円近くかかります。

なら、「安いバスで」となりますが、ラスベガスからグランドキャニオンまでは、約500km。
東京から大阪くらいまでの距離があるのです。日帰りだと相当疲れます。

アクセスが良いとは言えません。

 

世界遺産のマチュピチュの場合、飛行や高速バス、鉄道を乗り継ぐ必要があります。
また、ペルーは治安の問題もあります。

しかし、世界から観光客数が増えすぎて、1日の入場客数を制限しているくらいです。

その場所にしかない、自然や文化があれば、交通アクセスの良さは必ず必要な条件ではないと思います。

この点で星野佳路氏が掲げる観光立国の条件よりも、デービッド・アトキンソン氏の条件のほうがしっくりきます。

 

日本国内のアクセスについて

日本のアクセスも治安も確かに良いと思います。

アクセスの面では、新幹線・各地域のJR・私鉄ともに時間に正確です。

でも、自分が海外に行ったときのことを思い出すと、その訪問地内の移動はゆとりを持つためにおおざっぱで、多少電車が遅れてもかまわないものです。

都内の移動を考えたとき、大きなスーツケースを持って通勤時間帯に外国人観光客の方が移動するのは大変でしょう。

通勤ラッシュの時間帯にスーツケースを持って乗車されると、周りの方にジロジロみられてしまうと思います。

 

北陸新幹線や上越新幹線の場合、スキー置き場兼スーツケース置き場があるのでまだ良いのですが、最も利用者が多い東海道新幹線には、スーツケースを置く場所がありません。

これが、JRのおもてなし?また、最近のJRは効率重視で新幹線の中には食堂車がなく、車内で食べる楽しみはありません。

新幹線の路線と種類によっては、車内販売さえありません。

写真は、北陸新幹線のものですが、東京 ←→ 長野間を結ぶ「あさま号」には車内販売がないという案内です。

日本語だけでは、外国の方は分かりませんね。

新幹線に乗車する前に食べ物を買い忘れたら、車内では空腹で過ごすしかありません。

おもてなしとは程遠い状況かも知れません。

 

新幹線とよく比べられるドイツのICEには食堂車があり、車内で食べる楽しみがあります。
でも、時間は新幹線を比べて不正確です。私も乗った時、ずいぶんと遅れました。

でも、食堂車も含めてゆったりと過ごす時間で良かったです。

 

JRは、ビジネス向きに特化しすぎではないでしょうか。
JRには、時間の正確さ・安全性に加えて、「移動中の楽しみ」を追加して頂きたいものです。

 

併せて、JRの駅構内に設置されているトイレにおいて、

日本人でも使わない、罰ゲーム的な和式便器

はすぐに撤去して、オリンピック前までに全て洋式便器に交換して頂きたいと思います。

 

四季ではない、気候のバリエーションが日本の強み

本書にも書かれていますが、四季がある国は日本に限りません。

赤道に近い国や、極地に近い国を除くと、四季がある国はいくらでもあります。

 

本書によると、日本のメリットは、暑い地域と寒い地域の差。

今の時期、北海道では雪が降る地域もでてきていると思いますが、沖縄はTシャツでも過ごせる気候です。

1~2月だと北海道でスキーをして、その後に沖縄に移動してホエールウォッチングもできてしまいます。

この気候の温暖の差の大きさが、日本のメリットだとしています。

ちなみに、スキーではご存知のようにニセコや、長野のスキー場が人気があります。

ニセコスキー場

以前ニセコと長野のスキー場に行った時、外国人の方が多くて驚きました。
特にニセコは、外国のスキー場に来たようでした。

 

長野では志賀高原や白馬のように、一つのエリアで複数のスキー場が楽しめる事と、雪質が良いのが人気です。また、スキー後の温泉も魅力です。

オーストラリアやカナダのスキー場は、リフト券が(時期にもよりますが)1万円前後することが珍しくありません。

日本のリフト券は、4,000~5,000円程度で高いと思ってしまいますが、外国人スキーヤーから見ると、日本のリフト券は割安に見えるようです。

 

日本への外国人観光客数は、タイよりも少ない

海外旅行者受入数の2015年ランキングでは、日本は1973.7万人で16位。

アジアで日本より上位なのは、

4位:中国 5688.6万人
11位:タイ 2988.1万人
13位:香港 2668.6万人

があります。

最近、日本でも外国人観光客が増えたとはいえ、タイよりも少ないのは意外だと思われるかたが多いと思います。

国内の交通アクセスも治安も、タイよりも日本の方が良いと思うのですが、デービッド・アトキンソン氏が書かれている観光立国の条件が、現時点では日本の方が下なのでこの結果なのでしょう。

なぜ欧州の観光客は日本よりタイを選ぶのか
日本政府が掲げる「2020年に訪日外国人観光客4000万人」という目標を確実に達成するためには、従来の考え方を変える必要があるということを、全国の講演会などでお話しさせていただいております。そう聞くと、これ…

 

日本の観光立国の潜在力。2030年に8,200万人

日本の観光立国の潜在力が発揮できれば、政府が掲げている

「2020年までに訪日外国人観光客 2,000万人」

の代わりに、「2020年までに5,600万人」が妥当だとしています。

さらに、「2030年までに、8,200万人」が妥当としています。

現時点の外国人観光客数から考えると、ものすごい観光客数なのですが、それだけの潜在力があるということです。

 

本書出版後、本書の通りに改善されている?

「新・観光立国論」は、初版が2015年 6月です。
少しずつではありますが、この本に書かれたことが、国の戦略として現実になってきているようです。

先の東洋経済オンラインの記事によると、以下のような点が改善されています。

「おもてなし」が観光政策から姿を消した理由
3月30日、日本の未来に極めて大きな影響を与える画期的な「ビジョン」が示されました。2020年の訪日外国人観光客数を4000万人、外国人旅行消費額を8兆円。同じく2030年には6000万人で15兆円の消費を目指すという明…
  • 国の目標が、著者の提言に近い「2020年までに4,000万人」に引き上げられた。
  • 2030年の目標も、6,000万人に引き上げられた。
  • 消費額の目標が示された(訪日観光客数だけではない目標)
  • 本書にも書かれている、「観光客ひとりあたりの単価」を意識することが意識されてきた。
  • 目標から「おもてなし」の文字が消えた。(本書に書かれている通り)

外国人観光客の増加は、地方経済にも大きな影響を与えると思います。

日本の、数が限られる成長分野の一つとして、観光業はこれまで以上に力を入れてほしいものです。

 

マイラーにも関係がある、外国人観光客の増加

現在の国の目標は、訪日外国人観光客数を2020年までに、過去最大が確実になった今年の約2倍、4,000万人にすることです。

 

島国の日本では、外国人観光客数の来日手段のほとんどが飛行機です。

今よりも多くの観光客を運ぶためには、機材を大型化したり、路線や便数を増やす必要があります。

羽田空港でも、発着回数を増やすために東京都心ルートの運用が予定されていたり、5本目となるE滑走路の増設も検討されはじめています。

また、地方の観光地にも、外国人観光客が訪れることにより、国内の路線も追加されるかも知れません。

このように、外国人観光客が増えることは、マイラー活動にも少なからず影響が出てくると思います。

まとめ

なんだかまとまりの無い文章になってしまいましたが、この「新・観光立国論」はとても良い本だと思いますので、観光業に関わる方は、絶対に読むことをお勧めします。

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